第5章 雄英、調査期間
「………犬猫山くんかい?」
穏やかな声が聞こえ、私はゆっくりそちらの方を向いた。そこにいたのは八木さんだった。八木さんはいつも通りの穏やかな顔で、そして少し心配そうにこちらを見ていた。
「今は授業中だろう。サボリはよくないぞ」
何故ここにいるのか。不法侵入ではないのか。とにかく聞きたいことは色々あったが、私は子猫を見せた。
「…この子が降りられなくなっていて…爆豪くんと、緑谷くん…クラスメートなんですけど…彼らと一緒に救出してきたところなんです。八木さんは何故このようなところに?」
「ひ、久しぶりにね。学校を訪問していたんだよ」
なるほど。八木さんは一応裕英卒業者だから、不法侵入にはならないのか。
「………なにかあったのかい?」
「何がですか?」
「……泣きそうだ」
ぽんっと頭を置く八木さんの手を私は握った。気がつけば私の口は勝手に動いていた。
「…会いたく…なかったんです。できれば、知りたくなかった。………どうしよ。私…………」
八木さんは何のことだかさっぱりだろう。でも、何も言わず黙って肩を摩ってくれた。
私はヴィラン。ヒーローという敵を殺すのが使命。例えそれが……昔大好きだった幼なじみの2人だったとしても。
「なんで……知らないままの方がよかったのに……」
そうすればこんな思いをすることなく、敵として殺すことができるのに。