第16章 私はヴィラン、ヒーローじゃないの
~誰かside~
「貴方の個性でここまでやれた。虎太郎…今からでも遅くないよ」
そう夜蝶に言われた時、小さい頃の夢を覚えてくれていたのかと嬉しかった。それを証明するために、必死で雄英に合格してみせたのだ。馬鹿だなぁ…俺の夢はあの時…母親を見殺しにした時点で叶わない愚かな夢だと思い知っていたのに…。
「……ごめんな…」
俺は就寝している夜蝶にそう呟いた。猫の姿だから、起きていたとしても彼女には届いていないだろうが。
「ごめん。こっちに引き摺りこんでごめんな」
最初にヴィランの門を叩いたのは俺だった。
孤児院から逃走した夜蝶にあいつらが接触してきて、それを知った直後だった。俺は亡くなった父方の親戚に預けられていた。
「…………俺…あいつらに復讐する」
彼女が俺のところにこっそりとやってきた時、全身痣だらけの俺に、彼女は驚いた様子だった。俺は彼女と会ってすぐに姿を消し、ヴィラン側へと入った。
「……役立たずが…」
だが、俺は何も出来なかった。動物に変身し、会話を交わす程度の個性ではヴィランになれないらしい。俺は毎日殴られていた。これでは、あの家にいた時と何も変わらない…そう絶望していた時、あいつはやってきた。
「虎太郎。あなたも来てたんだ」
夜蝶は先生と呼ばれる人と、少し背丈がある少年と一緒にいた。俺はぐっと唇を噛み締めた。俺は彼女に別れを告げたはず…何故ここにいるのか、と。そして、俺の傷を治して笑う彼女に俺は現実を突きつけられる。
「………いつも俺と一緒に歩いてくれたお前が……俺を見捨てるわけなかったんだよな」