第16章 私はヴィラン、ヒーローじゃないの
~誰side~
俺が犬猫山 夜蝶と初めて会ったのは、母の務め先だった。犬猫山診療所…彼女はその診療所の一人娘だった。
「初めまして!! 夜蝶だよ、」
笑顔が印象的な少女だった。時折見せる、両親受け売りの医学知識も含め、彼女は自分の憧れだった。母は彼女の父親の妹…つまり、俺と彼女はいとこ同士だった。看護師の資格を持つ母が彼らを手伝っている間、俺は彼女と遊ぶ…そんな繰り返しの毎日だった。
「………ここはどこだ…」
そんなある日、あいつが怪我人としてやってきた。それから数日後に起こる、俺たちの人生を大きく変えてしまった事件の犯人…切裂(きりさき)が…!!
「ここは診療所。おじさん、倒れてたところを近所の人が連れてきてくれたんだよ」
人懐っこい笑みで、夜蝶はそう答えた。日頃から人手の足りない診療所では、患者さんが多いと手伝いをしていた俺たちにとって、それは日常的なことだった。だが…俺はその時背筋が凍るのを感じた。
「……………そうか…」
そいつは張り付いたような笑みを浮かべ、夜蝶を見ていたからだ。