第16章 私はヴィラン、ヒーローじゃないの
久しぶりの外は大層いいものだった。
「にゃ」
クロシロも楽しそうに私の前を歩いている。私は帽子を深く被り、小走りである場所へと向かう。
「…………いた…!!」
それは私が初めて八木さんと会った時の場所。そこには猫が多くおり、その中の少し大きくなった猫を発見。……うん…怪我の調子も良さそうだ。その猫たちが私にすり寄り、私はポケットから缶詰を数個開けて、彼らにあげた。
「にゃぁ」
彼らを撫で、私はようやく安堵できる時間が来るのだった。……ここ数日、色々ありすぎた。
「気分は晴れたか?」
声が聞こえ、私は顔を上げる。そこには他の猫と戯れていたクロシロの姿はなく、代わりに1人の少年が立っていた。私は頷く。
「少し」
その少年…虎太郎は私の横へと座り、再び猫と戯れ始めた。彼は少し眉を下げ、私を見た。
「ごめんな。あの部屋で変身を解くのはリスクが高いと思ってよ」
いや…と私は首を振った。彼の判断は正しいからだ。もし彼が変化を解こうとしたならば、私は必死で止めただろう。
「あそこは雄英が用意した部屋だからね。盗聴器とかはなかったけど…油断しないに越したことはない」
「……お前ならそう言うと思ったよ」
何故か虎太郎はさらに眉を下げた。そして、ただ無言の時間が続いた。段々時間が過ぎ、私はそろそろ戻るかと重い腰をあげる。最初の脱走にしては上手くやれた方だろう…。
「……夜蝶」
クロシロに戻る前、彼は口を開いた。私は振り返り彼を見る。彼は少し躊躇するように目線を逸らし…そして言った。
「………お前はお前だからな」
私は首を傾げ、答えた。
「……何当たり前なこと言ってるの。私は私だし、虎太郎は虎太郎でしょ」
「…あぁ。俺は俺だし、お前はお前だ」
虎太郎は微笑み、クロシロへと戻る。彼の残した服は猫たちが回収して行った。……こいつ、早着替えが特技になってないか…? そう思いながら、私は彼を抱き上げ、寮へと戻るのだった。