第15章 新たな門出と、仮免
轟たちは再試験を受けられるようで、それを私に伝えに来たようだ。私は彼によかったねと言うと、再度トガヒミコが去った方向を見る。……姿はもう消えていた。
「夜蝶?」
「……なんでもない。私達も行こっ」
そう声をかけ、私が踵を返そうとした時…視界の端に相澤先生が見えた。女性と話しているようだった。
「犬猫山さん」
彼女の後ろから真堂さんが手を振ってこちらに近づいてきた。怪我の手当はきちんとされたようで、元気そうだ。
「会えてよかった…先程の礼を言わせてくれ。君に言われて、焦っていたことに気づいた。あと…救けてありがとう」
人の良さそうな胡散臭い笑顔を浮かべた真堂さんが、すっと手を差し出してきた。私も握手を返そうとしたが、何故か私の前に轟が立ち塞がる。え、いや何よ…
「…手厳しいお兄さんだ。じゃあ、また。うちの担任も合同練習したいと張り切ってるし。その時はよろしく頼むよ」
特段轟の行動に気分を害した様子もなく、真堂さんはこれまた笑顔で去っていく。……あの人、結腹黒いこと言っていた気がしたんだが……読めない人だ。
「轟!」
おっと、今度は誰だ…そう思うと、イナサくんが大足でこちらに近づて来る。彼は素直そうな顔でニカッと笑みを浮かべる。
「また講習で会うな!けどな!正直まだ好かん!先に謝っとく!ごめん!」
やっぱり素直だ。私はそれを本人に言うか…と苦笑いをする。するとぐるんっと首が動き、彼の大きな瞳が私を映した。彼は少し緊張したように、私に笑いかける。
「あ、あと…俺やっぱりあんたが好きっス!でも俺は夜蝶ちゃんに相応しい男じゃねえから、また告白やり直させて欲しいっス!」
そんだけー!と言って、手を振って帰っていくイナサくん。その後ろ姿を轟が凄い顔して見ていた。これは講習会…不安だな…。