第15章 新たな門出と、仮免
「ずばりこの場にいる受験者1500人一斉に、勝ち抜けの演習を行なってもらいます」
隈が濃い男性が行った…仮免試験概要の説明。仮免試験がついに始まろうとしていた。誰もが緊張と期待を綯い交ぜにした表情で壇上を見つめていた。私は彼の言葉を聴きながら、確かにそのようにヒーロー側が動かないと民衆の心は離れていくだろうと思った。ヒーロー飽和社会と言われる現代で、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくはない。
「ヒーローとは見返りを求めてはならない、自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない」
ステインの言葉が頭を過った。…ヒーロー側としても、共感はできないけれど理解はできるといったところだろう。多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨した結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、ひくくらい迅速になっている、と。
「よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」
1500人の中から先着100名。すかさず野次が飛ぶが、彼はどこ吹く風った。先着100名を決める条件だと、サッと取り出した器具とボールの説明に移っていく。成人男性の手のひら大のボタンに似たものはターゲット、脇の下や足の裏など隠れる部分を除いた場所に装着し、各自に六つずつ配られるボールは自分以外の受験者のターゲットに当てる。ターゲットはボールが当たると発光し、受験者は自身に装着したターゲットが三つ発光した時点で失格。逆に、他者を三つ発光させた時点でカウントひとつ。二つカウントを取れば勝ち抜き。ターゲットは三つ目を発光させた人間が“倒した”と処理される。
「へー…面白いこと考えるよね」
「呑気!? てふてふちゃん呑気だよ!!」
私の言葉にアワアワしているお茶子ちゃんの背を撫でる。その間にも、説明は続いていた。当たり前だけど、雄英の入試よりルールは複雑で、かなり策を練らないといけないということが分かった。
「では、展開後にターゲット、ボールを配布いたします」
「展開?」
轟の言葉に私も首を傾げる。もしかして、会場がロボットみたいに動いたらとか…
ゴ、ゴ、ゴゴォ…
はい、当たりました!?文字通り展開した会場に顔面が引き攣る。無駄に大掛かりな仕掛けだ。行こっ、とお茶子ちゃんに促され、私はヒーロー公安委員会からターゲットとボールを受け取りに向かった。