第3章 学校生活
次の日。猫を連れてあの路地に行くと、偶然にもあの時の病人と会った。
「おおっ! 君はあの時の」
どうやらあちらも私のことを覚えていたようだ。
「こんにちは。……確か…八木さんでしたよね?」
「ああ。覚えていてくれて嬉しいよ。犬猫山くん。その猫は元気になったんだね」
ひょいっと私の手から猫を取り、撫でる八木さん。猫は別段嫌がる様子もなく、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「猫、好きなんですか?」
「まぁね。でも、怖がられることの方が多いかな」
怖がられる?1発のパンチでも死んでしまいそうなこの人を?
『気持ちいい。あったかい。いい人。大好き』
猫の方もそうは思っていないようだ。私はそれを八木に伝えると、
「そっか。君はそういう個性を持ってたもんね」
と嬉しそうに微笑んだ。
「ええ。あまり使えない個性ですけどね」
「そんなことはない。実際に君はその個性で雄英に入ったんだろ?すごいことじゃないか」
「え?」
笑う八木に私は首をかしげた。私は1回もこの人に自分は雄英だと言った覚えがない。だったら、なぜこの人は知っているのだろうか。しかし、その疑問は次の八木の言葉で解決した。
「あっ、私はこの辺りに住んでいてね。たまに制服姿の君を見かけるんだよ」
なるほど。近所ならば嫌でも目に入ってくるだろう。雄英という花形にいると、自然と人の注目を浴びるのだ。自分の知らぬ間に噂になっていることもあるだろう。
「声をかけてくだされば良かったのに」
「いや、登校中だったからね。それに私も会社に寝坊しそうになっていたから。爆発した寝癖を直す時間も無くてね。結局、着いて頭から水を被ったものだよ」
ボサボサの髪がさらに爆発した八木さんを私は想像し、思わず笑ってしまった。
「す、すみません。ちょっとツボに入っちゃって……。その髪の毛がさらに爆発して………くくくくく!! しかも水を被るって………」
久しぶりにこんなに笑った気がした。おそらく最近張り詰めていたからだろう。
「ふむ、自虐ネタがこんなにもウケるとは」
「ぶはっ!」
真面目な顔でそんなことを言う八木さんに私は、また爆笑した。
「や、八木さん、真面目だねってよくいわれるでしょ……」
「真面目?……ふむ、どうだろうね。初めて言われたような気がするような」
私は再びお腹をかかえて笑った。