第9章 私たちのはちゃめちゃな職場体験
「………何言ってやがる」
隣で私を庇うように立つ轟が、そう奴に言葉を返す。ヒーロー殺しは笑った。そして、同じ言葉を繰り返す。
「お前は俺の後継者に相応しい」
そして、私に向かって手を伸ばした。
「俺と共にこい。俺なら、お前を分かってやれる」
…これが話とやらか。私は呆れたようにため息をついた。
「誰も彼もヒーローだと名乗り、この社会は腐敗している。分かるだろ? お前を見た瞬間から分かった。お前は………」
別に話の最中だと言って、油断してたわけではなかった。むしろ、戦闘中に会話する敵は、相手の隙を探ってくるものだし、警戒に警戒をしていた。指一本の動きでも対応出来るつもりだった。しかし………
「お前は俺と同じだ、と」
一瞬で距離を詰められ、剣が私へと振り下ろされる。私はそれを避け、距離を取ろうとするが、ヒーロー殺しはそれを許さない。私を殺さぬよう急所は狙わず、足や手を狙ってくるヒーロー殺し。
「くそっ!!」
轟が私を庇おうと炎と氷を出すが、難なく避けるヒーロー殺し。逃げ場なんて与えないように、轟は左右から攻撃しているはずなのに…それを避けるって化け物でしょ。しかし、それで隙ができ、私は少し距離を置くことに成功する。緑谷たちは…まだ動けそうにない。
「……もうやめてくれ…!! 二人とも!!」
飯田が叫び、私は笑った。
「何を今更。始めたのは飯田くんじゃん」
「そうだ!! これは僕の問題だ!! だから…」
「なら、立ち止まんな!! なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!!!」
そう叫ぶ、轟に接近するヒーロー殺し。私は思わず走り出した。…間に合うか…
「轟くん!!」
「言われたことないか?挙動が大雑把だと」
ヒーロー殺しの動きが速い…!! 一気に轟の懐に入り込み、そして……ヒーロー殺しと目が合い……
「えっ!?」
私は体制を崩しかけた。突然の突風が私の横を通ったからだ。
「飯田くん!?」
動けるようになったのか!?そして、飯田は一瞬のうちに、轟を襲った刀を折った。速い…ヒーロー殺しが反応できないほどに。
「緑谷くんも轟くんも…そして犬猫山くんも関係ないことで…申し訳ない。だからもう…これ以上血を流させるわけにはいかない」