第9章 私たちのはちゃめちゃな職場体験
しかし特に何か起こるわけでもなく、私はただゆっくりエンデヴァーの大きな後ろ姿を見て歩くだけ。隣にはのんびりと周りを見る轟の姿が。
「おっ!! 俺知ってる!! あの子、雄英の子じゃん!! 握手、握手!!」
と思ったが、ただのんびり歩いているわけじゃなかった。私に詰め寄ってくる一般人の間に割り込み、対処してくれる。
「今、職場体験中ですので、ごめんなさい。応援、よろしくお願いします」
まぁ、そんなことしてもらわなくても、ニコッと手を振れば大抵は引いてくれる。まぁ、引いてくれない人にはエンデヴァーのところへ行くのが無難なのだが、そうなると今度は轟が不機嫌そうな顔をするので、本当に面倒くさい。
「おい!! 邪魔すんな!! 彼氏でもあるまいし……」
…今回は大抵の人じゃないようだ。轟に突っかかるその人は私の方をじっと見る。……あぁ、面倒だ。私は轟の後ろから抱きついた。轟の柔らかい髪が私の鼻を擽ると共に、目の前のその人がぎょっとした顔をする。…そういえば、昨日もこの人来てたな。
「そう見えます? まぁ、あまり似ていませんもんね、私たち」
クスクスと笑うと、その人は私と轟の顔を交互に見た。
「えっ!? きょ…兄弟!?」
「あっ、ほら轟くん。早くしないと置いていかれるよ」
私はポカンとするその人を置いて、轟の手を引っ張る。まぁ、嘘は言っていない。私のこの発言で、エンデヴァーが何を言われるのか…私の知ったことではない。意趣返しができたようで、私は少しスッキリとした。