第9章 私たちのはちゃめちゃな職場体験
私は水を飲む手を止め、彼を見た。彼は笑顔を崩さず、私を見る。
「…轟くんがいるからではなく、私ですか?」
「ええ。まぁ、確かに坊ちゃんがいるからもありますが、ここまでではなかったでしょう」
この人は何か知っているのだろうか?私はニコッと微笑んだ。
「やけに言い切りますね」
「ええ。だって、あなた…爽和さんによく似ていますから」
爽和…私の母の名だ。やはり、この人は内部のことをよく知っているようだ。私は笑顔を保ったまま口を開いた。
「…エンデヴァーさんの妹さん…でしたっけ?」
「はい。そして、エンデヴァーさんがNO.1にこだわり続けるきっかけを作った方でもあります」
隣で蕎麦を啜っている音が2つほどする。まぁ、見なくても誰かなんて分かるが。おそらくもう少しで私たちのも届くだろう。
「…きっかけ…ですか?」
「ええ。おそらく、今のあなたと重なるのだと思いますよ。当たり前ですが、あなたはお父様にも似ており、お母様にも似ていますから」
きっかけのことは、エンデヴァーさんにでも聞いてくださいね。と、私の心を読んだかのように運転手は言う。……この人は何故そのようなことまで知っているのか…。私の疑問に答えるかのようにその人は言った。
「私はエンデヴァーさんのいとこにあたり、あなたのお母様…轟爽和さんの元婚約者なんです」