第8章 職場体験の前に起こったゴタゴタ
「いや、お前のプライバシーには興味が無いから安心しろ。ただ、使われていないはずのこの部屋から、何故か話し声が聞こえてきたから、気になっただけだ」
悪気がなさそうな顔で、轟はそう言いながら、部屋に入ってきた。と、そこで何かに気づいたようにこてんっと首を傾げた。
「そういえば、犬猫山。なんでお前がここにいる?」
ガクッと体中の力が抜けてしまった。こいつ、天然か!?いや、天然よりタチが悪そうだ。頭が痛くなった私は、大きなため息を吐いた。
「何故って…そんなの私が聞きたいよ…。帰ったらマンションの私の部屋が無くなってて、わけも分からず連れてこられ、さらにはエンデヴァーからここに住むように言われた…この状況…。私もまだ信じられないんだから」
「……そうか」
一気にここまでの経緯を話した私に、轟はその一言で済まし、私の真正面に座った。…いや、長居する気満々じゃん。
「……」
「……」
「……」
「……」
いや!!しかも、何も喋らんのかい!! 本当、マイペースだな!!
「…俺が小さい頃、あいつが必死に人探しをしていた時期があった」
長い沈黙のあと、轟はそう切り出した。メールを確認していた私は、画面から顔を上げる。
「あいつが俺たちを外へと連れて行ってくれたことなんて、多分あの時以外ない。だから覚えてる」
今度は私が首を傾げる番だった。突然始まった脈略もない話。私に関係あるのか?バチッと轟と目があい、私は口を開いた。
「ねぇ、一体なんの話し…」
「あいつが連れて行った場所は、ある小さな孤児院だった。覚えてねぇか? 俺はそこで初めてお前に会ったんだ、犬猫山」