第7章 指名と名前決め
「…授業があるのにすまないね。僕のことは覚えているかな?」
とある会議室に連れていかれ、私は促されるがまま席に座る。私の前には机を挟んで、男が2人座っており、相澤先生は少し離れたところに立っている。
「………塚内さん…でしたよね?警察の方の」
私の言葉に塚内さんはニコリと頷いた。隣の男をちらりと見ると、男はただただ私の顔をジッと見つめていた。……確か、こっちの男は、私を利用して脳無を操らせようとした奴だ。
「…今回、君に少し話があってね。君にとっては思い出したくもないことだろうが…」
私の視線を外すように塚内さんは話を切り出した。黒霧さんドンピシャじゃん!千里眼という重複した個性でも持っているのではと疑いたくほどだ。
「あまり情報漏洩になるので、詳しいことは言えないのだが…脳無についてだ」
私は視線を斜めに逸らした。憂いた顔をするのも忘れずに。
「………彼の件については……私では何もできないと申しあげたはずです。彼は……」
「君だけだった!!!」
私の迫真の演技を邪魔したのは、塚内さんの隣で目をギラギラとさせた男。………私の演技はここからが見せ場だったのに…。私が男へと視線を向けると、男はさらに興奮したように身を乗り出し、私の肩を掴んだ。
「君だけだったんだよ!!あの化け物にはどんなアプローチをしても何の反応を示さなかった! しかも、特定の相手の命令しか聞かないように弄られていた!!それなのに、君だけは彼を思うように動かせた!!!それは何故だ!?君の個性は、動物に強力な影響を及ぼす。そんな個性、この世の中には溢れている。それにも関わらず、君以外は不可能だった!!」
……気持ち悪い。それが私の感想だった。私の肩を掴む男を、周りは止めようとしたが、彼の興奮は収まらないようだ。男はさらに口走る。
「君の個性で、ヴィラン側に一泡吹かせられるかもしれない!あいつらが作った化け物が、やつらの身を滅ぼすことになるだろうなんて思いもしないだろう!! 君もヒーロー志望なんだろう?君の個性で、我々と共に……」
私がもうそろそろ唾が顔にかかりそうだったので、その手を振りほどこうとした時だった。気づけば、目の前の男が地面に伏していた。