第6章 雄英体育祭
「………大丈夫かい?」
目を開けたときに八木さんの心配そうな顔を見るのは、これで何度目だろう…。私は微笑みながら、ゆっくりと起き上がった。
「……すみません。気を失ってしまったみたいで……」
そして、体調は大丈夫だというと、八木さんはホッとしたように笑みを浮かべた。
「しばらく安静にするようにと、リカバリーガールが言っていたからね。本当に無茶しすぎだ」
コツンっと私の頭を軽く小突く八木さん。夢見が悪かったことなんて…あの男のことなんて忘れてしまえるくらい、この人の隣は居心地がいい。
「もう決勝戦は終わって、今から閉会式が始まるが…表彰式は出れそうかい?」
少し眠ってしまったようだ。私は頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
「……犬猫山くん!」
不意に八木さんに呼び止められ、私は振り返る。八木さんは、呼び止めたものの躊躇するように口を何度も開いたり閉じたりする。
「………私は君の味方だよ。…何があっても」
そして、ニッと笑う八木さん。私はポカンとその姿を見ていた。一瞬…ほんの一瞬…笑う八木さんがオールマイトと重なったからだ。心臓がバクバクという。
「あっ!? ごめんごめん!! おじさんにこんなこと言われて、気分を害しちゃったかな?? 」
押し黙る私を、八木さんは慌てたように謝った。私はそれをぼんやりと見つめた。何故この人は、他人の私にこんなにも優しいのだろうか…。こんなにも、細くて頼りたい体なのに…私はいつも彼に頼ってしまうのだ。不意に夢の中で去り際に男が呟いた言葉を思い出す。
「………ありがとうございます。私も……」
ようやく口を開いた私を、八木さんはきょとんとした顔で見つめる。
「私も…あなたの味方でいたいです。…あなたが私をどう思おうと」
八木さんは私の言葉で首をかしげた。私に疑惑の目を向けないその素直さに、私はニコッと笑った。
「いつもお世話になってますから。じゃあ、私はもう行きますね!今日は本当にありがとうございました!!」
そして、私は部屋を出て、ひんやりとした廊下を歩いた。
「………本当に、ここに長くいすぎたなぁ」
そんなことを思いながら、私は表彰式へと向かったのだった。