第6章 雄英体育祭
「1部からブーイングがありましたように…私の場合ズルみたいなものですから。…私だけの力じゃ、一次予選で負けてましたよ」
「それも君の力だ」
しかし、私の言葉を否定するように、私の目をまっすぐ見て八木さんは言った。
「動物しか操れないきみの個性を、上手く活用してるじゃないか。ロボットや地面を操れるのも…君が作ったそれのおかげなんだろう?」
私はハッと目を見開いた。…私…この種たちは自分で開発したものだと八木さんに言ったっけ?そう口を開こうとしたが、ふとこの人も雄英出身だったことを思い出した。観察していれば、分かることか。
「全力でやっている者に、そのような物言いは感心しないね。爆豪くんのときも思ったが、プロヒーローが野次とは…情けなく思うよ」
ため息をつく八木さんに、私は思わずクスクス笑ってしまった。この人が、あのプロヒーローたちよりヒーローらしい言動をするのは、これで2度目だ。
「…やっぱり…八木さん。ヒーローみたいなことを言うんですね」
「えっ!?」
私はリカバリーガールが出してくれたお茶にお礼を言って、啜った。八木さんは相変わらず手を大きく振っている。
「いやぁ…その…癖かな…?おじさんの説教くさい話なんて、聞きたくなかっただろうね。ごめんごめん」
今度は私が否定する番だ。じんわりと温かいお茶の温度を感じながら、私は自然に笑みを浮かべていた。
「いえ。あなたの言葉は、どんな励ましよりも…温かいですから。私はあなたに助けられてばかりです」
もし私が…ヴィラン側の扉を叩く前に、彼のような人に会っていたら……そんな考えが頭を過り、私はそれをかき消すかのようにお茶を飲んだ。まだすこし熱かったお茶の温度に、舌が鈍い痛みを発する。
「君に助けられたのは私の方だよ。最初に会ったときを覚えているかい?」
私は頷いた。………あそこが私の人生の分岐点と言ってもいいくらいだ。
「…犬猫山くん?」
「あ!私そろそろ行かないと…。八木さん、私頑張りますね」
そして、立ち上がると、リカバリーガールと八木さんにお辞儀をし、部屋を退出した。…私があちら側だと知ったら…この人は私にどんな言葉をかけるのだろうか…少し興味があった。