第6章 雄英体育祭
結論から言うと、勝ったのは爆豪だった。彼らしく油断せずに戦い、そしてお茶子ちゃんも健闘した。
「…私…ちょっと行ってくるね」
私はダッシュで彼女の元に向かった。別に慰めるうんぬんの約束などはしてなかったが…両親のためにヒーローになるという彼女を嫌いにはなれなかったからだ。
「…あ…犬猫山さん!!」
中に入ると、緑谷と扉で鉢合わせしてしまった。私はお茶子ちゃんにひょこっと顔を出す。
「あ…てふてふちゃんも来てくれたの?うれし……な……」
ぎゅっと服の裾を掴み、涙を堪えるお茶子ちゃん。私が緑谷に目配せすると、察した彼は退出する。
「んっ!!」
私は彼女に向かって大きく腕を広げた。
「…………う…うううう!!」
ボロボロと大粒の涙を流し出すお茶子ちゃんが、私の胸に飛び込む。
「うんうん!爆豪くん相手にめっちゃめちゃ健闘してたよお茶子ちゃん。よく頑張ったね!相澤先生にあそこまで言わせるなんて、お茶子ちゃんは凄い!」
「す…凄くない。最後焦りすぎたし…完敗だったし…」
「うん! 焦りすぎたね。次はそれを行かそう! でも、爆豪くんの目を欺いて、あの攻撃を狙ったのは流石だよ。あの石の量を浮かすのも並大抵のことじゃできないし。というか、私にはできないし………凄いよ、お茶子ちゃんは」
そして、泣きじゃくる彼女の手から携帯を取る。携帯はまだ繋がっており、画面には父と表示されていた。
「こんにちは。お茶子ちゃんと同じクラスの犬猫山夜蝶と言います。お話中すみませんでした…」
「ごめ……父ちゃん……せっかくの……チャンスを……私…」
「いやいや。お茶子はもぉ生き急がんでも大丈夫やで」
優しい声が携帯の中から聞こえ、この声だけで、お茶子ちゃんのお父さんだと分かる。ふと、父親のことが頭を過る。あの人も…優しい人だったなぁ…。だが、優しい故に…何も守れず死んで逝った。
「そんななるくらい優しいお茶子は、絶対いいヒーローんなるって、俺わかっとるもん」
「う…うううう…」
嗚咽を上げて泣く彼女を、私は軽く抱擁する。
「……犬猫山さん。ありがとなぁ」
電話から聞こえくる声に答えながら、私は静かに目を閉じた。…………少し、この生活に身を置きすぎた。ヒーローの卵である彼らは…あまりに危うく…そして、とても真っ直ぐだった。