第6章 雄英体育祭
「……なんでここにいるのか聞いてもいいか?」
「慰めてあげようと思って」
すると、乾いた笑いをこぼす心操くん。顔を上げると、その目には少し涙が滲んでいた。
「そうやって、男を何人も落としてきたのか?」
「あ、そう言っちゃう人に、慰めなんていらなさそうだね」
私が舌を出して、その場を去ろうとすると、体に重みがかかる。紫色の髪が目に入った。
「………ちなみに、聞いておいてやるよ。普通科にいる…冴えないヴィランみたいな個性を持つ奴に…どんな慰め方をするんだ?」
私はポンポンと、私に回された彼の腕を軽く叩く。
「慰めて欲しいの? あれだけ、プロヒーローに褒められたのに?」
「……あれだけじゃ足りないに決まってるだろ…」
欲張りだなぁと言いながら、私はくすくすと笑う。
「心操くんはよく頑張ったよ」
「……あぁ…」
「緑谷くん相手に……物理的な個性を持った相手に、よく健闘したよ」
「……あぁ…」
「だけど、もう少し身体を鍛えなきゃね。ヒーローになるなら、3人くらいは持てるくらいないと」
「……そうだな…」
段々と私へ回す腕の力が強くなる。それと共に、私の肩が湿っていく。
「……これで、英雄はあの入試試験を見直さざるを得なくなった。君が変えたんだよ。心操人使。君は君のように雄英を目指す後輩達の…まさにヒーローになったんだよ」
「………っ!!!」
心操くんの歯を食いしばる音が強くなったところで、私はくるんと回り、彼を正面から抱きしめた。
「大丈夫。君はなれるよ。君の思うようなヒーローに。だって君は……」
頭に…友人の顔が過ぎる。あの時も…こんな風に…言えたらよかったのだけど…。だから、私は力を込めてこう言った。結局、彼に伝えられなった言葉を。
「君は誰よりも、ヒーローに向いている男だよ。だから…大丈夫」
「………っ!!! あぁ…!!」