第6章 雄英体育祭
試合を見れば、もう佳境に入っていた。沈黙を守る緑谷を掴んで投げようとした心操くんの腕が逆手に掴まれ、もう片方の手が胸ぐらに届く。
「……負け…た…かぁ」
心操くんも気付いたのか、咄嗟に重心をずらし逃げようとするが緑谷の方が早い。上手く誘導させられたな…とため息をつく。あれは、前に爆豪がやられた背負い投げだ。あのときよりも、綺麗な体重移動で心操くんの体が浮く。着地した先は、ラインの外側。
「心操くん場外!緑谷くん二回戦進出!」
私はそれを選手通路で見守っていた。通路の入り口からは、会場の拍手とプロヒーローたちの会話が耳に入ってくる。
「対ヴィランに有用な個性、もったいねえ」
「雄英もバカだな」
そうそう…バカなんだよねぇ。こんなにこっち側は欲しい個性なのに、それを普通科にしちゃってるんだからさ。普通科の子たちが、心操くんに賛辞を送り、心操くんの顔が歪む。
「今回は駄目だったとしても、絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取得して、絶対お前らより立派にヒーローやってやる」
こりゃあ…心配なかったかな。心操くんの言葉を聞き、私はくるりと後ろを向く。馬鹿正直に返事をした緑谷が洗脳の個性で再び硬直するのが、見なくても分かる。
「フツー構えるんだけどな、俺と話す人は」
わざと廊下に響くように心操くんはそう言った。振り返ると、ばっちりと目が合う。私が肩を竦めると、心操くんはフッと笑った。
「みっともない負け方はしないでくれ」
また性懲りも無く洗脳された緑谷にちょっと笑っていると、通路に心操くんが入ってきた。