第6章 雄英体育祭
心操くんを見ると、開始直後早々に緑谷くんを煽り、緑谷くんが反射的に声を荒げる。
「あーあ…」
私は思わず声を漏らした。これで、緑谷が自力で彼の個性をとかない限り、勝利は無くなった。完全停止した緑谷くんは心操くんの命令通り場外へ歩きだす。
「……本選で戦いたかったのになぁ」
心操くんの個性があまりにも、この場合有利すぎて拍子抜けしてしまう。……こんなもんか?緑谷出久…
「あ!デクくん!!!」
一歩、また一歩と場外に近づく緑谷。ふと、彼が歩くその先に八木さんらしき人が試合を覗いているのが見えた。
「………なんであの人あんなところに…」
緑谷から目を離したその一瞬、突然風が舞った。あの衝撃で巻き起こる風…私は思わず立ち上がった。あのUSJでのオールマイトと同じだ。緑谷…まさか…心操くんの個性を破ったのか!?!?他者から与えられる衝撃でしか解けない洗脳……あれをまさか自力で振りほどいたと!?一体どうやって!
「何で…体の自由はきかないハズだ…何したんだ!!」
私は思わず口元を抑え、歩き出した。皆、緑谷たちの試合に夢中で誰も気づかない。
「なんとか言えよ、〜〜〜〜ッ、指動かすだけでそんな威力か!羨ましいよ!」
焦りからか、彼の本心が彼の口から溢れ出る。脳裏に、友人が浮かび上がる。
「俺はこんな『個性』のおかげでスタートから遅れちまったよ、恵まれた人間にはわかんないだろ」
…俺はこんな体で……恵まれたお前が羨ましい…と、怒りをぶつけられたことは今でも思い出される。
「誂え向きの『個性』に生まれて!望む場所へ行ける奴らにはよ!」
私は足を早めた。本来、こんなことをする義理はないし、私はそんな柄でもない。でも、どうしても彼は…彼だけは放っておけなかったのだ。だって彼はあまりにも……似てるから。