第6章 雄英体育祭
「………もしも…」
「随分遅い連絡ですね」
コール音が2回鳴るか鳴らないかというところで、丁寧な言葉遣いの人が電話に出た。私はキョロキョロと辺りを伺いながら、近くの木に身体を預けた。
「…申し訳ありません。予選に集中したかったものですから…」
「見ていましたよ。随分、目立っていましたね」
自分で挽回しろと言いながら…私はふぅっとため息をついた。
「いけませんでした? でしたら、本選はもういいでしょうか。私、前に出て戦うようなタイプではないもので…」
「あなたの居場所が無くなってもいいのなら、お好きにどうぞ」
私は思わず舌打ちをしそうになった。黒霧さんが珍しく不機嫌なのは声色で分かっていたことだが、私に当たらないで欲しい。電話の奥で、パリンっと皿の割れる音がした。
「……申し訳ありません。少し立て込んでいまして……気を悪くしないでくださいね」
「…いえ…。そちらは大変そうですね」
黒霧さんが大きなため息を零すのがわかる。私もため息をつきたかったが堪えた。
「……近々、ヒーロー殺しと接触することになり、少し気が立っておりまして…。本当にすみませんでした。君も大変だと言うのに……」
そう言えば…この人はこういう人だったっけ。私は気にしていないと笑い、緑谷の報告を分かるだけした。その時、あちら側が何やら騒がしい。
「……死柄木。今はあの件についての報告なので……いえ……違いますよ。ただのモブです。彼女ではありませ…。ですから、それはきちんと謝って……」
モブって……まぁ……死柄木が出てきたら、ろくに報告も出来やしないから何とか言い訳だろう。………あぁ…あいつがいない時に電話すれば良かった。だが、勝手に切ることも出来ず、私はただただ黒霧さんの言葉を待った。まぁ、あの人、いつもは死柄木に甘いけど、ちゃんとしてるところあるし、大丈夫だろ……
「おい……」
その瞬間、黒霧さんが根負けしたことを悟った。