第1章 Episode0 #すべてのはじまり
『ん………』
何かがごそごそ、っと動いた気配がした。突っ伏していた頭を上げて、目をそっと開ける。
『あ………』
思わず声が漏れた。
ずっと眠っていた男性が目覚めたのだ。
しかも、しっかりと目が合った。
『よかった!目が覚めたんですね!?』
私が何者なのか、とか説明するのを忘れて、私は勢いよく椅子から立ち上がる。
よかった!
目を覚ましてくれた。
『って、今何時?』
室内にかけてあった時計に視線を移す。
『えっ!?もう9時!?』
慌てて外を見ると、もう真っ暗。月明かりが静かな光で闇に包まれた街を照らすだけだった。
少し冷静になってみると、部屋の中も真っ暗だった。電気さえつけていない状態で、僅かな月光が私達を照らすだけ。
『あっ、すみません!私ったら1人でべらべらと……』
そんな微かな光に照らされた彼と目が合った瞬間に、どっと恥ずかしさが襲いかかってくる。
ひとりで喋り続けて。大の大人がはしゃいで……。
「ははっ、大丈夫ですよ」
彼の笑い声に、俯けた顔をばっと上げる。
「ずっとここで付き添ってくれてたんですよね?」
私がこく、っと頷くと、彼がふ、と息を漏らした。
「ありがとうございます」
そう言って、にこりと笑う彼に、一瞬胸が高まった。