第5章 Episode4 #波乱
『私が………私がお母様を………死なせてしまったの………私のせいでお母様は……!』
途中で言葉が途切れてしまった。ダメだな………。喉がかすれて、声が出ない………。
「お姉様………違うわ。お姉様は何も悪くない。お母様もそう。誰も悪くないの………」
凜が私の手をそっと握った。
その優しさに甘えそうになる。でも、それではいけない。私は、優しさに触れてはいけない。
『違う……!やめてっ!私が悪いの!全部全部全部っ……私のせいなの!』
凜の手を払いのけ、私は拳をぎゅっと握った。爪が手のひらに立ち、少しぴりっとした痛みが走ったが、そんな痛さ、私なんかには弱すぎる。
「どうしてお姉様はひとりで全てを背負い込むの?お姉様は優しい人よ。でもそれは、本当の優しさなの?自分に優しくない人は、人に優しくない人よりも悲しいことだと私は思うわ」
涼やかな声でそう告げた凜に、私は一瞬何も言えなくなるが、焦って口を開いた。
『私は優しくなんかない!優しくないから………お母様を────』
「お姉様!いい加減にして!」
私の言葉を遮り、凜が声を張り上げる。そして、パンッと私の頬を手のひらで叩いた。
打たれた左頬を押さえながら、驚きを隠せずに凜に視線を向けた。
「どうして………そんなこと、言うの………」
震えた声で、凜がぼそりと囁くように呟いた。私をきっと睨みつけたその目には、大粒の涙が溜まっている。
『凜………?』
その涙は、ぼろぼろと彼女の目から零れ落ちる。
「私はもう…………家族を失いたくないの………。もう私を………ひとりに、しないで………」
お願い、と掠れる声で呟き、縋るように凜が私に抱きついた。
でも…………
『凜、ごめんね』
私は彼女の手をやんわりと解いた。
『一度逃げ出してしまった私には、もうこの家に帰ってくる資格はないの。だから、ごめんね……』