第5章 Episode4 #波乱
【梶裕貴side】
俺はしばらくの間、彼女が先程まで寝ていたであろうソファーを黙って見つめた。
こうしている間にも彼女はまた傷ついているかもしれない。俺が助けないと。
そう思うのに、なぜか動かない。
彼女の元へ行きたいのに、俺が邪魔をする。
俺のこと、少しは気になってくれているのか、なんて期待して馬鹿みたいだ。結局彼女は俺の元から離れていくじゃないか。今追いかけたところで、彼女が俺の元に来てくれる保証は?
「くそっ………!」
違う!
違う違う違うっ!!
俺はそんな負の感情を頭から必死に追い払おうとする。でも、どれだけ拳で膝を叩いても、頭を振っても、消えてくれない。
そう………。
馬鹿なんだよ、俺は。
だって、こんなこと考えてしまうんだから。
「しっかりしろよ、俺………」
俺は彼女に見返りを求めていたのか?俺が助けるから、俺を好きになれ、と。あの時、寝ている彼女に囁いた「俺が守る」って言葉は嘘だったのか?
違うだろ?
俺は彼女に泣いて欲しくないだけ。傷ついて欲しくないだけ。その為だったら、俺が傷ついても構わない。
八つ当たりしていただけだろ?
少し自惚れていた俺に嫌気がさしただけ。酔いしれていた俺に腹が立っただけ。
彼女は誰にでも優しい人だ。
それは、記憶を失っていたからでもあるかもしれない。でも、それだけじゃないはずだ。結局、彼女の根本的な人格は残っていたんだ。
その優しさは誰にでも向く。
俺だけじゃない。海斗くんにも美玲ちゃんにも柚葉ちゃんにも、梅ちゃんにも。
勘違いしてはダメなんだ。
「よし、行くか」
俺は自分に喝を入れ、立ち上がる。
「あ、その前に……」
あぶないあぶない。
彼女が向かった先はおそらく、彼女の実家。それは分かるが、どこにあるのかは知らない。
俺は梅ちゃんに電話をかけた。