第5章 Episode4 #波乱
「お姉様………?やだ………っ、待って!」
私は力なく床に座り込んだ凜に背を向け、玄関へと向かった。
今日、この家に来たのは、もう一度この家にいさせて下さい、と頼む為ではない。謝罪して、一切の縁を切る為だ。
『ごめんね………』
私自身にも聞こえないくらいの声で、もう一度謝ってから、リビングのドアを開けた。
『え………?』
私は思わず、その場に固まってしまった。そこにいたのは、私にとってあまりにも驚くべき人だったから。
『どうして………梶くんが………?』
私を見下ろす梶くんの顔は、すごく傷ついているようだった。どうして、彼がこんな顔をするのだろう。
ああ、確か前にもこんな事があった気がする。デジャヴと言うのだろうか。
彼はいつも、私以上に喜び、悲しんでくれる。例えそれが、彼には関係の無いことだとしても。
『全部、聞いていたの?』
こくり、と頷き、私と彼との間に沈黙が流れる。
「ミネ………」
先に口を開いたのは、梶くんだった。
「もう………解放してあげて」
解放?
何のことだろうか。
私はそんな意思も込めて、彼を見返した。
「自分を縛り付けて、痛みつけて…………。そんなの、君が辛いだけだよね?もう、終わりにしよう」
終わりにする。
その意味が私には伝わってきた。でもそれは、本当にしてもいい事なのだろうか。
私はこの苦しみから逃れてもいいのだろうか。
『でも………もう、逃げてはいけないの………。逃げてはダメなの………。私は苦しみ続けないといけないの。だから梶くん、さ────』
「やだ………。聴きたくない」
そう言って、梶くんが私に抱きついた。私よりも背の高い梶くんに抱きしめられると、彼の胸に顔がうまってしまい、何も喋られない。
「だって、さようなら、って言うつもりだったでしょ………?やだよ………、俺は、聞きたくない………」
そして、より一層強く抱きしめられた。