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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第5章 Episode4 #波乱


リビングの椅子にとりあえず座らせてもらった。

何か話さなければ、と私の本能的なものが訴えるけれど、何を話せばいいのか分からない。その結果、『変わらないね』というなんとも気の利かないありきたりな言葉を口に出した。

「ええ……。私はこの空間が好きだから。それに、お姉様も帰ってきた時に安心できるかなっと思って」

と、苦笑しながらお茶を出してくれた。

『あ、ありがとう……』

出された紅茶が入っているのは、おしゃれで高貴なティーカップではない。それは、私が両親から貰ったイニシャル入りのマグカップだった。

『これ………』

「大事にしまっておいたの。いつかまた、お姉様にそれでお茶を、と思って」

凜の優しさがとても心に染みた。

贅沢をしない両親だったが、ただひとつだけ────家だけは違った。落ち着いた生活のしやすい雰囲気にするために、木を多く使用し、各自室など以外の仕切りをなくした。例えば、キッチン。料理をしながらでも家族の顔を見渡せるように、とお母様がキッチンとリビングとの壁をなくし、カウンター式に注文したのだ。

そんな思いやりとこだわりがたくさん詰まった家。

でも、もうこの家には凜と私しか………

『凜………』

凜も同じことを考えていたのか、深く悲しそうな顔をする。もう今にでも泣いてしまいそうだ。

『あのね………』

ちゃんと、言おう。
凜がどこまで知っているのか分からない。凜は知りたくないことかもしれない。それでも、私は自分の罪を告げなければならない。





【梶裕貴side】

目を覚ますと、そこに彼女がいなかった。

「ミネ………?」

どうして彼女はすぐに俺の前から消えてしまうのだろう。どうして俺を頼らない?どうして1人で抱え込んで嘆く?どうして自分だけが辛い思いをしようとする?

どうして自分が1人でないことが分からない?
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