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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第5章 Episode4 #波乱


『ここだ………』

私の目の前にあるのは、大きな家。いや、屋敷というべきだろうか。常の2倍ほどの時間がかかってしまった。全て思い出した、とは言ってももう10年ほど帰っていなかったのだから、忘れてしまった所も多々あるのだ。仕方ない。

インターホンを鳴らす。
少し、指の先が震えた。ボタンを押すのに少し、躊躇った。

私はここに帰ってきてもよかったのだろうか、と。

「はい、どちら様でしょう────っ!お姉……さ、ま……?」

私をお姉様、と呼んだ中から出てきた少女は全く私の見たことのない少女だった。それでも、確信した。

『凜(りん)………』

ああ、この少女が……!
あんなにも小さかったのに、こんなに大きくなって……!
私はうっかり涙が出そうになったのを必死にこらえた。

『凜……なのね?』

本当は確信していたけど、思わず確かめてしまった。肯定を期待して。

「お姉様………!」

凜が私に勢いよく抱きついた。
確かに大きくなったけれど、まだどこか華奢で細い。そんな凜を、私は優しく抱きしめ返した。

『9年ぶりね。元気にしてた?』

そう言葉にしてから、9年、という時間の長さを私は痛感した。9年、とはなんて長いのか。まだ7歳だった小さな少女がこんなにも立派に美しく成長している。私はそんなにも長い間記憶を失っていたのか。

「お姉様の方こそ!お姉様、今までどこにいたの?記憶を失っていたって本当なの?」

涙で濡れた顔を私に向ける。
当時齢7の妹に、私はなんて過酷な生活を味合わせたのだろう。それが、私のすべき事だったのか。

私は改めて、自分の愚かさを、弱さを憎んだ。

『ごめんね……凜』

私はこれからこの子に真実を打ち明けねばならないのか。そう思うと気が重くなった。

私の罪を打ち明けるのは別に問題ではない。私が責められるだけで終わるから。でも、そうすると凜はどうだろう。私は凜がどこまで知っているのか知らない。それでも、凜にとって辛いことに変わりはない。

このままだと冷えるので、私は凜を家の中へと促した。
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