第4章 Episode3 #過去
『梶くん────あ………』
厨房から出た瞬間に、私は固まってしまった。そこには梶くんと………………
梅原さんがいた。
「梅ちゃん、どうしたの?」
「ミネに、話があるんです」
そう言った彼と目が合った。
そうだ。
私はこれからどうするか、彼と話さなければならない。過去を知るか、知らないか。
「ミネ………。どうだ?答えは決まったか?」
私はちらりと梶くんに目を移した。梶くんは訳が分からない、とでも言うように眉を潜めている。
「俺は………どいた方がいい?」
私達の空気から何となく重い話だ、と感じ取ったのか、梶くんがどこか遠慮がちにそう言った。
『梶くんは………そこにいて、話を聞いていて』
どうしてか分からない。
でも、私は知らず知らずのうちにそう言葉にしていた。今の私の思っているありのままの気持ちを彼に伝えよう。そう思った。
『少し、怖いの。でも、梶くんがいれば心強いから。それに、貴方には知ってほしい』
私は力なく微笑んだ。
どんなに情けない笑みでも、笑わなければきっと泣いてしまう。私は弱いから。
『梶くん………、あのね、実は私………記憶喪失なの………』
「え………?」
梶くんが困惑した表情を浮かべた。
当たり前の反応だ。
今まで接してきた人が記憶喪失だったのだから。
『信じられないかもしれないけど、本当のことなの。18の時。気付けば私は記憶を全て失っていた。私は誰なのか。私は何なのかも何も分からない。名前や年齢は身分証を見たから分かったけど、それ以外は何も』
私は徐々に笑みを保てなくなってきていた。どれだけ目に力を入れても、涙が次から次へと溢れ出てくる。
『記憶喪失の大体はね、精神的に大きなダメージを受けた時に、その記憶に蓋をしてしまって起きるの。目が覚めた時、私は病院にいたけど、どこにも大きな傷はなかった。もちろん、頭にも。それってつまり………、何か忘れたいくらいに辛いことがあったってことでしょう?私が弱いってことでしょう?』
だから……………
それを受け入れきれる自信が無いの…………。