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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第4章 Episode3 #過去


『柚葉ちゃん!!』

「わっ、店長!?」

私は勢いよく柚葉ちゃんに抱きついた。こんなことしたことないし、私らしくないのは分かっているんだけど………。

『あのねっ、好きな人が出来るってどんな感じ!?』

私には分からない。
でも、もしかしたら〈私〉には分かるのかもしれない。とにかく、記憶を失ってから初めての事で、何がなんだか分からない。この気持ちを何と呼べばいいのか。私はこの気持ちとどう向き合っていけばいいのか。

柚葉ちゃんが普段とは全く違うような真面目な顔になる。

「店長。それは自分で考えないとだめです」

でも、と柚葉ちゃんが人差し指を口元に置き、ぱちっとウインクをした。

「ひとつだけヒントをあげます。その気になっている人の目を、ちゃんと見てみてください。どんなに恥ずかしくても、です。3秒目を見ただけで、店長はその答えが分かるはずです」

『3秒………』

梶くんの目を3秒見るだけ。
前の私なら絶対に簡単に出来ていた。それでも、今の私にとっては難しい。それってやっぱり、梶くんを意識してるから?

もやもやして変な感じ。
早くこのもやもやを消してしまいたいのに、消すのが怖くもある。

でも決して、嫌な気持ちではない。

「頑張ってください、店長」





【梅原裕一郎side】

あいつは過去を知りたいのだろうか。知らない方が、あいつの為なのだろうか。でも、いつか知らなければならない。でないと、思い出した時に辛いのはあいつだ。

「あー……分っかんねー」

俺は与えられた自室のベッドに寝転がりながらずっと同じことを考え続けている。延々と続くこの問に答えはあるのだろうか。

コンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「んー、どうぞ」

扉の向こうにいる人物は決まっているから、わざわざ誰か、と確認する必要もない。

「裕一郎さん。私をお姉様に会わせて頂けませんか?」

入るなりいきなりこれだ。

「よく考えろ。あいつがパニックを起こすだけだろうが」

「ですが………」

「いいからお前はここにいろ」

何か言いたげにまだこちらを見ているが気にせずにケータイをいじる。



どうすっかな………。
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