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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第4章 Episode3 #過去


『いらっしゃいま────ぬぁああ!?』

お客様の顔を見て奇声を上げるなんて、と思うかもしれない。でも………だって………

「おーい、ミネー?」

海斗くんの背中に身を隠した私に彼が声をかけた。彼は今一番会いたくない人。

そう。
梶くんだ。

海斗くんが私を背に庇いながら、何があったの、とでも言いたげな顔をしながら顔だけをこちらに覗かせた。

『な、ななな、何でしょう!?』

私の反応を見た梶くんが、私をじーっと見つめた。それだけで顔がかあっと熱くなるのが分かる。

「ミネ………あのさ、俺の勘違いかもしれないし、自惚れかもしれないんだけど………」

梶くんが言いにくそうに言葉を濁らせた。その続きが気になる私は梶くんを眼で急かした。

「…………俺のこと、意識……してる?」

………………。
…………意識?
梶くんのことばっかり考えちゃって、梶くんと会うとパニックになっちゃって訳が分からなくなっちゃうのって…………梶くんを意識してるから?ううん。違わないけど違う。

梶くんを意識してるから、梶くんのことばっかり考えちゃって、梶くんと会うとパニックになっちゃって訳が分からなくなっちゃうんだ。

え?
私、梶くんを意識してるの!?

『ふぁああぁあああああ!!!』

顔に熱が更に広がっていくのを感じた。そして、私はその勢いのまま厨房へと逃げ込んだ。





【梶裕貴side】

「俺………のせい?」

俺は自嘲的な笑みをその場に残された海斗くんに向けた。

「良くも悪くも、そうっすね」

とか、意味深な事を言いながら、これまた意味深に肩を竦めた。

「梶さんと会って、店長は変わったんすよ。前の店長はクールって感じで俺らの失敗もさらっと自分で解決してた。でも、とある日を境に店長は変わった。すれ違いざま倒れた人の付き添いで病院に行ったその次の日。店長は変わった。俺らの前で涙を流して、ありがとう、って言ったんすよ?店長はすごく、人間味のある人になった」

海斗くんが俺に笑いかけた。

「全ては、梶さんと出会ってからなんすよ」
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