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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第1章 Episode0 #すべてのはじまり


『だ、誰か!救急車を!!』

私と男性の周りを囲うようにできた人混みに助けを求める。生憎、ケータイを持ってきていないのだ。

「分かりました!今、電話をかけます」

その人だかりの中のひとりが電話をかけてくれる。

その間に、また別の人に声をかける。

『あの、すみません』

「……っ、はい、なんでしょう?」

いきなり声をかけたからか、その人が一瞬声をつまらせた。

『このバターをseasonというパン屋に届けていただけませんか?この道をまっすぐ進んで、信号の手前を右に曲がった所にあります』

私は必死に守り抜いたバターを女性に渡す。その女性が優しい人で助かった。

「はい、分かりました。season、ですね」

そう確認して、彼女が足早にseasonへ向かってくれた。

これでバターの心配は大丈夫。
私の店の皆はしっかりした子ばかりだから、後の事は心配しなくて大丈夫。あの子達なら信じられる。

それより、私に被さったままの男性の息がどんどん荒くなっていくのが心配でたまらない。熱があるのは確かだ。

とにかく、救急車の到着を待とう。
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