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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第4章 Episode3 #過去


私は公園で梅原さんと別れ、seasonに戻った。暗い気持ちを私は切り替えて、店に入る。みんなに心配させたくないから。

「あ、ミネ!やっと来たー」

『梶くん……?』

夕方時のがらんとした店内で、梶くんが賑やかに私を迎えてくれた。いつもなら、お客さんがいなくてしーんとした時間帯なのに、梶くんがいるだけでこんなにも賑やかで明るくなる。

「梶さん、ずぅっと店長を待ってたんですよー?ねえ?」

『え……?』

柚葉ちゃんの意地悪な言い方に、梶くんが頬を赤らめた。

「い、言わなくていいからっ!」

「わぁー、動揺しまくりー」

海斗くんも柚葉ちゃんに負けないくらいの悪人ヅラで梶くんを肘でつんつんする。

いつの間にみんなと仲良くなったの?

うっかりそう言葉を漏らしてしまいそうになる。まだ初対面も同然なのに、彼はここにもう馴染んでいる。

「ミネ!信じちゃダメだから!!いや、嘘ではないんだけど!!」

『ふふ………、あはははっ』

あまりにも必死に訴えてくる梶くんがなぜかとても面白く感じた。とても可愛くて、面白い。

どんなに笑っても、どんどん奥から何かが込み上げてくる。

『ご、ごめん……っ!ちょっと今、おかしい、みたいっ……!』

笑いが止まらない。
それくらいに面白いはずなのに、なぜか頬に何か温かなものがつたった。

『あ、あれ……っ?なんで……泣いてるんだろ……』

「店長………?」

美玲ちゃんがそっと私の肩に手を置いた。

『うぅっ………うぁ……っ』

笑いの次は涙が止まらない。

どうして………?




いや、理由は知っている。
きっと、安心しているんだ。
私は記憶を取り戻したら、それと同時に全ての辛い過去を受け入れなければならない。それが怖い。

でも、そんなの知りもしないみんながあまりにもいつも通りに、賑やかに明るく私を囲んでくれるから、そのことがとても嬉しかったんだ。


『みんな………っ、ありがとうっ……』
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