第4章 Episode3 #過去
『いらっしゃいま────あ……』
昨日の今日で、また彼が来た。
彼………そう、梅原さん。
「話、詳しく聞かせろって言ったろ?」
『はい……そうでしたね』
私は従業員の子達に、少しだけ休みをもらうように伝え、梅原さんを連れて近くの公園に行った。ここは、高層ビルが立ち並ぶ中で、唯一静かで安らげる場所、と言ってもいいだろう。
「それで……、お前……記憶喪失、なんだよな?冗談でも何でもなく……本当、なんだよな?」
現実を受け入れられない、とでも言うかのような彼の声に、私は静かにこくりと頷くことしか出来なかった。
「………そうか………。なあ、どこまで覚えてる?」
『何も……。18よりも前の記憶はさっぱり……』
まじかよ、と彼が少し笑った。でも、それは多分、寂しさを紛らすための笑みだから、私は彼に笑みを返さなかった。だって、それは違う気がするから。今は現実を見たくない、という彼の望みを否定しなければならない。だってそれは、彼の為にはならないから。残酷すぎるから。
「……にしても、よく自分の名前とか分かったよな。記憶、なかったんだろ?」
『財布の中に身分証が入ってたので……』
そうか、と彼が深く息を吐いた。
「なあ、お前は………過去を知りたいか?」
過去………。
私の過去………。
『時間を、ください』
現実を見ようとしないのは、彼じゃない。
私の方だ。