第4章 Episode3 #過去
「っ………、どうして……」
彼の複雑な笑みが苦しげに歪んだ。
「どうしてそんなことするの………?俺のこと、大嫌いなんだよね?気持ち悪いんだよね!?だったらどうして………!」
私のせいだ。
彼が彼自身を傷つけたんじゃない。私が彼を傷つけてしまったんだ。
『梶くんは気持ち悪くない』
いつの間にか、私の口調も元に戻っていた。私の言葉に、梶くんが駄々をこねる子供のように首を横に振った。
「君が言ったんじゃん……」
『違う!あれは………あれは、自分自身に言ったの』
私の言葉が足りなかったせいで彼を傷つけてしまった。彼の手が、私の手の中で徐々に熱を帯びてきた。
「ミネは気持ち悪くなんかない!そんなこと言っちゃダメだよ」
彼の手が熱くなればなるほど、私の手が冷たく感じてきた。いや、実際に冷たいのだろう。手の感覚が無くなりそう。
『本当に気持ち悪いの。私は私が大嫌いなの』
私は自嘲的に微笑んだ。
だって、どういう表情を取り繕えばいいのか分からなかったから。彼を少しでも安心させるように、と微笑んだ。なのに、どうして彼はさっきよりも傷ついた顔をするのだろう。
「俺の好きになった子をそんなふうに言わないで。俺は、君が好きなんだ。好きな子を悪く言われたら、俺だって悲しい」
どうして?
どうして彼は………
そんなに優しいの?
私は得体の知れない私が嫌い。
大嫌いなのに、彼は私を私以上に好きでいてくれる。そんな彼に、私は幻滅されたくない。でも、それ以上に…………、
私をもっと好きになって欲しい。
『梶くん』
「なに?」
『私、梶くんのことをもっと知りたい』
これが私の返事。
私なりの返事。
この返事を、〈私〉は受け入れてくれるだろうか。