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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第4章 Episode3 #過去


「あ、なら俺が帰ります」

梅原さんが私を振り返り、私にしか聞こえない本当に微かな声で、「あとで詳しく聞かせろよ」と言い残し、店を出て行った。どうやら、梅原さんは悪い人ではないらしい。彼なら、信じてもいいのかもしれない。

でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。今一番会いたくない人と、店内に2人きりになってしまったのだから。

『それで、用事って何ですか』

私がそう尋ねると、梶くんがひどく傷ついたような表情をする。どうして彼がそんなにも泣きそうな顔をするのか、私にはよく分からない。

「そんなあからさまに怯えないでよ」

『怯えていません』

「嘘」

梶くんがそっと私に近づいてきた。木で出来た店の床が、ぎしっと軋む音を鳴らす。私は反射的に後ずさる。そうしてから、はっと彼を見た。きっと、傷ついた顔をしているに違いない、そう思ったから。

私の予想は当たっていた。泣きそうな顔で優しく微笑んでいた。とても複雑な顔。彼が今、何を思っているのか読み取れない。

「手、震えてる」

彼がそっと私の手を取った。その冷たさに、肩がびくりと跳ねた。外から来たばかりだから当たり前、そう分かっているのにその冷たさにぞっとした。

『震えてません』

「震えてる。……………ごめん、俺がそうさせたんだよね」

先程までの彼とは全く違う。目の前にいるのは、自分で自分を傷つけてしまった弱い梶くんだ。

『梶くん………』

私は彼を哀れに思った。これはいわば同情だ。
私はそっともう片方の手で、彼の手を包み込んだ。どうか、私の熱が彼に移りますように、と願いを込めて。
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