第4章 Episode3 #過去
「まあ確かに、背も高くなったし声も低くなったけどさぁ………誰ですか、とかひどくない?」
苦笑しながら頭を掻く彼を、私は本当に知らない。でももしかしたら、私は知らないけど〈私〉なら知っているのかもしれない。
「俺だよ、裕一郎」
裕一郎………。
本当に分からない。私には分からない。
「え、本当に分からない?梅原裕一郎!お前、いつもゆうちゃんって呼んでただろ?」
『ゆうちゃん………?』
「お前の妹の美羽(みう)も待ってんぞ。今まで何してたんだよ」
誰?
誰なの?
彼は私を知っている。
でも私は彼を知らない。
私に妹なんていたの?
美羽………?
誰?分からない。
ゆうちゃん、と名乗った彼がどんどん私に近づいてくる。私はどうすればいいのか分からなくて、後ずさることしか出来ない。
『あの、本当に誰ですか?私に妹なんていたんですか?私のことを知っているんですか?』
私の質問攻めに少し相手が戸惑う。でも、何かを悟ったのだろう。彼は急に真面目な顔になった。
「ミネ、お前………もしかして────」
*
*
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【梶裕貴side】
彼女に振られた。
大嫌い、だって。
気持ち悪い、だって。
「おっ、裕貴じゃん!今日、飲みに行かね?」
相変わらず明るい大人だなぁ。
俺の今の気持ちなんてお構い無しだ。
声を掛けてきたのは下野さん。
とても優しくしてくれる、いい人だ。そして何より、明るくて元気で、年上だという感じがしない。
「今日は遠慮しときます」
昨日から決めていたんだ。
俺は今日、彼女に会いに行く。もうとっくに閉店時間は過ぎている。だけど、彼女にプライベートで用があるんだ。
閉店時間は過ぎたはずなのに、扉に掛けてあるプレートはまだopenのままだった。おかしく思いながら、扉を開ける。
「ミネ」
彼女を呼ぶ声が聞こえた。
この声を俺は知っている。
「梅ちゃん………?」
なんで梅ちゃんが彼女に抱きついてんの?