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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第4章 Episode3 #過去


「まあ確かに、背も高くなったし声も低くなったけどさぁ………誰ですか、とかひどくない?」

苦笑しながら頭を掻く彼を、私は本当に知らない。でももしかしたら、私は知らないけど〈私〉なら知っているのかもしれない。

「俺だよ、裕一郎」

裕一郎………。
本当に分からない。私には分からない。

「え、本当に分からない?梅原裕一郎!お前、いつもゆうちゃんって呼んでただろ?」

『ゆうちゃん………?』

「お前の妹の美羽(みう)も待ってんぞ。今まで何してたんだよ」

誰?
誰なの?

彼は私を知っている。
でも私は彼を知らない。

私に妹なんていたの?
美羽………?
誰?分からない。

ゆうちゃん、と名乗った彼がどんどん私に近づいてくる。私はどうすればいいのか分からなくて、後ずさることしか出来ない。

『あの、本当に誰ですか?私に妹なんていたんですか?私のことを知っているんですか?』

私の質問攻めに少し相手が戸惑う。でも、何かを悟ったのだろう。彼は急に真面目な顔になった。

「ミネ、お前………もしかして────」





【梶裕貴side】

彼女に振られた。
大嫌い、だって。
気持ち悪い、だって。

「おっ、裕貴じゃん!今日、飲みに行かね?」

相変わらず明るい大人だなぁ。
俺の今の気持ちなんてお構い無しだ。

声を掛けてきたのは下野さん。
とても優しくしてくれる、いい人だ。そして何より、明るくて元気で、年上だという感じがしない。

「今日は遠慮しときます」

昨日から決めていたんだ。
俺は今日、彼女に会いに行く。もうとっくに閉店時間は過ぎている。だけど、彼女にプライベートで用があるんだ。

閉店時間は過ぎたはずなのに、扉に掛けてあるプレートはまだopenのままだった。おかしく思いながら、扉を開ける。

「ミネ」

彼女を呼ぶ声が聞こえた。
この声を俺は知っている。

「梅ちゃん………?」






なんで梅ちゃんが彼女に抱きついてんの?
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