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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第2章 Episode1 #約束


梶さんが私を運んでくれた。
となると、一つ疑問が生じるわけで。

『あの、どうして私の店に?』

私は何の躊躇もなくそれを口にした。だって、気になるから。私には、彼に来てもらう義理も何も無いから。

「これを返しに」

彼は少しいたずらっぽく微笑むと、〈それ〉を紙袋から取り出し、私に差し出した。私は反射的に寝込んでいたベッドからばっと起き上がる。

『それ!』

思わず目を丸く見開き、口をぽかんと開ける。私は今、さぞかし間抜けな顔をしているだろう。

「はい」

彼はどこか自信あり気に頷き、これまた自信あり気に微笑んだ。

「約束を守りに来ました」

そして、〈それ〉……私が彼に差し出したマフラーを、私の首にふわっと巻いた。私すら、もうあの約束を忘れそうになっていたのに。彼は覚えていてくれた。それどころか、守ってくれた。


こんなにも嬉しいことがあっただろうか。


こんなにも……




この女性らしさが欠けたマフラーを温かいと思ったことがあっただろうか。
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