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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第1章 Episode0 #すべてのはじまり


「あ……あの!」

手を振ってから、後ろを向いて歩き出した私を梶さんが止める。もうあんなに大声を出せるって事は、元気な印だ。

『はい……?』

私が振り向くと、梶さんが私の元へと駆けてきた。確かにもう元気かもしれないけど、さすがに走るのは彼の体に負担がかかるんじゃないだろうか。

私の考えた通り、少し息が切れている。

「あの……、よかったら連絡先を教えてください」

『え……?』

思いもしなかった言葉に私はすっとんきょうな声を上げてしまう。咳払いをしてから、私は彼に問いただした。

『連絡先を……?私のですか?』

「他に誰がいるんです」とでも言いたげに彼が私を見つめた。

『あ……はい……分かりました』

ポケットの中に手を入れてから、初めて気づく。そういえば、ケータイはseasonに置きっぱなしだと。昨日からずっと置きっぱなしだったから、もしかしたら充電が切れているかもしれない。

『すみません……ケータイを忘れたみたいで……』

私が顔を上げると、梶さんが少し震えているのが見えた。それもそうだ。今は真冬の12月。この寒さの中、彼はマフラーさえしていないのだから。

私は自分の首に巻いたマフラーを外し、寒さに震える彼にそっと差し出した。
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