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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第1章 Episode0 #すべてのはじまり


『よければ、どうぞ』

私のマフラーのデザインは(自分で言うのも気が引けるが)、女性らしさが微塵も感じられないくらいに地味なのだ。マフラーの色は、安定の黒。最近のファッションの流行に敏感な男の人達の方が、よっぽど可愛らしいデザインのものを身につけている。

「え……」

あー、ほら。
戸惑ってる。

『余計なお世話、っていうやつですか?』

特に彼を責めるつもりは無かったのだけれど、知らず知らずのうちに少しぶっきらぼうに聞こえる。

でも彼は、そんな私の言葉に怒るどころか、にこりと微笑んでくれた。

「いえ……すごく嬉しいです」

暗い雲に隠れてしまったはずの太陽が見えた気がした。目の前に陽だまりができたような気がした。

私にそう錯覚させるくらいに彼の笑顔は魅力的で、温かで優しかった。

彼は私の女っけの欠片もないマフラーを首に巻いて、口元まで上げる。

「あったかい……」

えへへ、と笑う彼に私の心臓が早鐘を打つ。

『そ、そういうことなので!』

なにがそういうことなのだろうか。
頭の中が真っ白になりそうで、私は必死に自分を叩き起こした。

『そのマフラー、ちゃんと返しに来てください』

「え?」

彼の驚いた顔を見て、少し嬉しくなる。
人の驚いた顔を見るのは好きだ。私が驚かせた、という限定付きで。

『いつでもパン屋seasonにてお待ちしております』

そう言い残して、私は今度こそ、店へと向かった。
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