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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第1章 Episode0 #すべてのはじまり


『すみません………』

申し訳ないというか、情けないというか、いたたまれないというか………。

私はそんな負の感情からか俯いてしまう。それを見た梶さんが困ったように笑う。

「あ、あはは……別にいいですよ、それくらい」

ここは彼の大きな器に感謝だ。
ここは、自尊心を傷つけた、と罵られてもいい場面なのだから。

「さ、そろそろここを出ましょうか」

彼の指す〈ここ〉とは、病院のことだ。彼はこの後仕事があるらしいし、昨日の件を謝罪しなければならないらしい。私はというと、今日も今日とてパンを焼き続けます。

病院を出ると、私達はそれぞれの職場へと向かった。seasonと彼の職場は全くの逆の場所にあるのだ。

『それでは、また』

会う事はないかもしれないけど、と心の中で呟く。だって、もともとは私達は他人同士なのだから。

昨日、彼が熱を出しながらも仕事を頑張り、外を出歩く。私の店では、美玲ちゃんがバターを仕入れし忘れる。そして、それを私が走って買いに行く。その帰りに梶さんとぶつかる。という偶然が重なることで私と梶さんは何の関係もない他人から顔見知り、へと変わったのだ。そのどれも欠けてはいけない。全てが重なり合って出来た、偶然なのだ。

人はこれを、〈運命〉と呼ぶのかもしれない。
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