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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第1章 Episode0 #すべてのはじまり


【梶裕貴side】

熱のせいか、あまり寝付けない。
彼女に心配をかけないように目だけ閉じ、眠りが誘うのを待つ。

どうして彼女に残って欲しい、なんて言ったんだろう。彼女と俺は初対面だ。ただ、彼女がずっと側で俺が目を覚ますのを待っていてくれた。それだけ。

なのに、どうしてこんなにも離れ難いと思うのか。

やっぱり、熱があるからこんなことを考えてしまうのかな。

俺は延々にそれを繰り返し考えた。
答えなんて分からない問題を、ひたすら俺自身に問い続けた。

『綺麗………』

え?

俺の延々と続くであろうこの問は彼女の言葉によって強制的に中断させられる。そして、俺は近くから聞こえた彼女の思いがけない言葉にうっかり声が出そうになった。

何が綺麗なのか。
目を開けて聞こうと思ったその時。


俺の頬に何か冷たいものが触れた。
その柔らかい感触は……彼女の手だろうか。熱で火照った俺の頬の熱が彼女の冷たい手に伝わるのが分かる。っていうか、綺麗って俺のこと!?

そう意識した途端にものすごく恥ずかしくなった。

冷たい彼女の指が頬から滑り落ち、首筋へと少し触れた。彼女に悪気はなかったのだろう。というよりは、彼女はそれに気づかなかった。

でも、それが不意打ちだったがために、俺は少し声が漏れてしまった。

「ん………」

しまった。
そう思った時には、もうすでに彼女は走ってこの病室を出ていっていた。


なんで声を出しちゃうかな。
出さなかったら、もっと………。



ん?
もっと………?
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