第9章 同じ匂い
「二瓶鉄造。」
「蜂名十兵衛だ。世話んなる。」
「その耳、お前はアイヌか?」
「半分な。」
「実にめんこい顔をしている。本当に男か?」
「男だよ。見る?」
「うん、見る。」
「はい。」
昼までの猛吹雪が一変して、天気はすっかり快晴。
星がチラつき、明るい夜だ。
「不思議な匂いのする男だ。」
「俺?」
「どこか、羆の様な。人間の皮を被った羆かな?」
「俺は人間さ。みったくねぇ人間。」
「うはははは!人間は皆みったくねぇもんだ。その中でどれだけ輝けるかだ。」
「ふん。おっさん。いい事言うねぇ。」
けど、見た目がいくら別嬪だろうが中身はクソだ。
俺の事。
このおっさんは変態だが面白い。
良い客にもなりそうだ。
「おっさん。俺、行くわ。」
「猟師でもアイヌでもないお前さんに、夜の山を降りられるか?」
「勘が鋭くてね。おかげで一人でも生きて来れた。」
「俺も嗅覚が鋭い。」
「まるで犬だな。」
「ワン!」
数時間一緒に居ただけで懐いたリュウ。
犬はめんこいもんだ。なんでも。
こっこでありゃ、もっとめんこい。
「ごちそうさん。麓に降りてくる事がありゃぁ、花街で俺の名前を出せば会える。礼に仕事をしてやるよ。」
「ほう。俺は上手いぞ。」
「楽しみだ。じゃぁな。」
月明かりに照らし出される冬の山。
川に沿ってゆっくり下っていく。
俺が羆ねぇ。
聞いたか親父?俺は羆だとよ。
こんな底辺這って生きてる、キムンカムイがいるかってんだ。
(ク・セマシテク)