第1章 憧れの騎士様
隅から隅まで、くまなく確認をした騎士様は、
「さすがだな。貰ってく。」
そう言って、すごく丁寧にそれを置いた。
商品をとても丁寧に扱ってくださる方なんだ…なんて素敵な方なんだろう…
代金をいただいて、最後の仕上げをする間は、店内の一角にあるティースペースでお茶を飲んでお待ちいただく。
防水の為の油仕上げの作業は、お渡しする前に…というのがおじいちゃんのこだわりで、私にとっても好きな時間だった。
「この店にはあの店主しかいないと思ってたが…お前、丁寧な仕事するのな。」
ティースペースにいたはずの騎士様は、いつの間にやら作業をしている私のすぐ隣で腕を組んで、様子を見下ろしていた。
憧れていた騎士様がとても近くにいることに、鼓動がトクトクトクと音を立てるように早くなった。
「あ…りがとうございます…」
騎士様から漂う上質なコロンの香りが、風に乗ってはなをくすぐる。
やっとのことで絞り出した小さな小さな私の声は、もしかしたら心臓の音より小さいかもしれない。
「あ、悪いな。ここで見てたらやりにくいか。」
顔が熱い。多分真っ赤なんだと思う。それを隠すべく、何か言葉を探す。
「…店主から、大切なお客様のお品だと伺ってました。クロフォード様は、よくこちらへいらっしゃるのですか?」
今はこのお店の店主代理を任されてる私は、最近までは大手の鞄屋に勤めていた。辞めたのはおじいちゃんが倒れてからだった。
「割と世話になってるかな。お孫さんか?あの偏屈なじーさんに、跡を継げるようなお孫さんがいるのは知らなかった。」
「ふふふ。祖父は気難しい面がありますし、失礼な事を沢山してしまっていたらすみません。」
偏屈なじーさん、だなんて的確すぎる言葉を騎士様から聞けて、なんだか共通の繋がりがあるようで嬉しい。
そうやって、店主である頑固で偏屈なおじいちゃんの話を話しているうちに、防水加工は仕上がった。