第1章 憧れの騎士様
カランカラン
お店の入り口に付けてある年季の入ったベルが鳴り、ドアが開かれたことを知らせてくれる。
「いらっしゃいませ」
開かれたドアに向かってそう言えば、入ってきた人物を見て、私は固まるしかなかった。
騎士様だ…
お披露目の行列の時とは違って、ラフな格好をしているものの、その姿を見ればすぐにあの騎士様だとわかった。
「店主はいるか?」
店頭に並べてある革細工を手入れする為の布を握りしめたまま固まる私に、穏やかな声が落ちてきた。
「あ、はい!あの、祖父…あ、店主は只今体調を崩しておりまして、代わりを私が勤めさせていただいてます。」
緊張でちゃんと声が出てこないものの、なんとかしっかりそう伝えれば、
「ご病気か?大丈夫なのか?」
と、気遣わしい言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます…少し復帰には時間がかかると、お医者様には聞いております。何かご要望でしたか?」
じっ…と、見つめられると、店主の代理を勤めなければ、という気の張った状態でなければ失神してしまいそう。
「頼んであった鞍が出来上がってるはずなんだが…」
そう言われて、はっと思い出す。
店主であるおじいちゃんから、大切なお客様の物だと聞いていたものがある。
今まで作った中でも特に素晴らしい、馬用の鞍だ。
「はい!少々お待ちくださいませ。」
肺を少し患って、ゼェゼェと辛そうな日にも、おじいちゃんが毎日大切に作り上げていたそれが、あの騎士様の為の物だということがとても嬉しかった。
早くお見せしたくて、バックヤードまで小走りをする。
それが置いてある場所まで行くと、そっと持ち上げ、大切に大切に、騎士様が待つ店頭まで運んだ。
「お待たせしました。えっと…アラン・クロフォード様…でお間違えありませんか?」
仮の包みに下げられた名前を確認する。
「…」
返事ではなく、代わりにふっと小さな笑い声が聞こえた気がして、騎士様を見上げると、
「ああ、間違いない。悪いな。なんだかすごく楽しそうだったから、思わず笑っちまった。」
と、すごくすごく優しい目で私を見下ろしていた。
「あ…あの…」
言葉に詰まっていると、
「これ、見ていいか?」
と、騎士様は鞍に瞳を落とす。
是非、と返事をして、仮の包みを開ければ、騎士様はとても丁寧にそれを手に取り持ち上げた。