第5章 小さな恋の物語
「大丈夫です!私はただの革職人ですが…革職人の名にかけてもアラン様は誰にもお譲りできません!」
自分を奮い立たせるために出した言葉は、なんだか様子がおかしくて、
「あっははははは。なんだよそれ。頼もしいけど…革職人の名にかけてって…。」
アラン様は腹が痛いと言いながら笑ってる。
自分でもおかしなことを言ったのがわかってるから、間抜けすぎて笑うしかない。
「でも…まあそうだな…それじゃあ…」
笑っていたアラン様は、急に笑うのをやめて…
「騎士の名にかけて…俺はお前を守る。」
繋いでいた私の手をそっと持ち上げて、甲に…指先に…口づけを落としていく。
唇が触れた部分に神経が集中してしまって、体がどんどん熱くなった。
扉が開けば…大広間中の方々がこちらを向く。
怯みそうになる私の手を、ぎゅっと握って、ヒソヒソと聞こえてくる言葉達を、意にも返さず歩くアラン様に、必死にくっついて行った。
ダンススペースまでたどり着くと、
「練習してきたんだろ?大丈夫だ。」
と、アラン様は耳元で囁いて、すっと手を差し出される。
レオ様に教えていただいた通りに…アラン様にお辞儀をして、その手を取った。
多分…すごく注目を浴びてると思うけど…
「俺だけを見てろ。そうすれば周りは気にならない。」
アラン様のおっしゃる通りに、私はアラン様だけを見る。
練習通りにステップを踏んで行く。
見つめるアラン様は、優しくて…このまま私は溶けて無くなるのかもしれない…という錯覚を起こす程に、踊っている緊張感も、注目を浴びている緊張感も、忘れてしまっていた。
私の頭の中は、アラン様でいっぱいで…気がつけば曲が終わっていた。
教えていただいた通りにお辞儀をする。
ダンスは終わったはずなのに、アラン様の瞳は私を射抜いたままで、いたたまれなくなって目を伏せた。
「ちゃん」
背後から声をかけられて、はっと振り向けば、微笑むレオ様と笑顔のプリンセスのお姿。
「上手だったよ。さすが俺の教え子。」
優しい魔法使いの微笑みは、双子と聞いたら…アラン様とよく似てらっしゃる。
「アラン。俺とプリンセスからのプレゼント。どう?」
「お前ら…」
お二人の会話を、嬉しそうに暖かく微笑んで見守ってるプリンセスは、やっぱり綺麗で…見惚れてしまった。