第5章 小さな恋の物語
アラン様は何も言わずに、私の手を引いて歩いて行く。
黙ったままのアラン様に、いたたまれない。
好きです、なんて言ってはいけなかったのかもしれないけれど…口からこぼれてしまったのだから、もう後の祭りで…
無言のまま、王宮の中を歩く。
高い天井には、とても綺麗な細工が施されていて…王宮の隅から隅まで見学をしてみたいな…なんて、こんな状況にもかかわらず、そんなことを考えた。
気がつけば、さっき出たばかりの大広間の扉の近く。
「…俺といればきっと辛い事がある。悪いがそれは避けられない。いろんな事言ってくる奴らも多いだろうしな。」
アラン様は前を向いたまま、握った私の手を強く握り直した。
正直…私なんかがアラン様に近づいていいのだろうか…と、ずっと思ってる…。
身分の事をアラン様はおっしゃらないけど…きっとそれも含めてって事…よね?
でもアラン様が好き。
今こうやって隣にいらっしゃるっていう現実が、信じられない。
「」
考え込んでしまった私の顔を、アラン様の大きな両手が包み込む。
そして、真っ直ぐで綺麗な瞳の中に、私の姿が映ってる。
「もう一度聞く。俺と踊ってくれるか?」
それは…気弱になっていた私の心に溶けていくような強くて甘い声で…
「アラン様…私はアラン様が好きです。アラン様こそ…私でいいのでしょうか…」
私はその甘い声につられて、今日二度目の告白をした。
アラン様のお顔が近づいて、唇が重なる。
「俺から離れるなよ?」
ドキドキと鳴り続ける胸の音は、まるで私を催眠にかけるように、アラン様のお側に居たいという気持ちを大きくさせてる。
「離れません!」
ぎゅっとアラン様の手を握る。
ははは、と笑うアラン様の声が聞こえて、
「会いたかった。まさかこんなとこで会えるなんて思ってもなかった。…無理させてるだろ?ありがとな。」
それは、普段お店に来てくださってる時のようなアラン様で…少しだけ体の力が抜けた気がした。
「あの扉の向こうに行ったら、多分否が応でも注目を浴びる。大丈夫か?」
大広間に居た煌びやかな方々を思い出す。
アラン様と踊りたいと願う方もきっと沢山いらっしゃる…
でも…誰にもこの場所はお譲りできない。