第5章 小さな恋の物語
それから、アラン様に話しかける為に集まってきた方々から逃げるようにして、私達は中庭に出て来た。
緊張で全然見ていなかったけれど…中庭はいろんなお花が咲いてる。
小さい頃から聞いていたお伽話を思い出して、アラン様に話せば、プリンセスはお伽話のお花を本当に探していたと教えてくれた。
やっぱり素敵なプリンセス。
今日この日をこうやって過ごせるのもプリンセスのおかげ。
そんな話をしながら、夜のお庭を歩く。
「アラン様ありがとうございました。またお店に来てくださいね。」
夜も更けて、帰らなければ。
アラン様と繋ぐ手を離してしまうのは嫌だけれど…きっとまたお会い出来るはず…。
「そろそろ帰ります。お会い出来てよかった…」
繋いでいるアラン様の手を両手に包む。
大きな手…綺麗な指…離したくないけど…帰らなきゃ。
ぐっと腰に腕がまわって引き寄せられた。
そしてアラン様のお顔が近づいて…唇が重なるのを期待して目を閉じる。
…………あれ?
そっと目を開ければ、至近距離で見つめるアラン様と目が合った。
コツンと額がぶつかる。
キスを期待していた自分が恥ずかしくて、一気に顔が熱くなった。
「キスされると思ったろ?」
アラン様の意地悪…ってなんだかとっても楽しそう。
「う〜…」
恥ずかしくて顔があげられない。
「して欲しい?」
アラン様の指がそっと私の唇に触れて、トクトクトクトクと心拍数が上がって行く。
誘導されるように顔をあげれば、アラン様の指先は唇をなぞる。
「帰らせるつもりねえけど…どうする?」
唇をなぞられているだけなのに…体が熱くなっていくのがわかった。
アラン様とキスをしたい…もっと触れて欲しい…
生まれて初めて抱いた感情だと思う。
離れたくない…
「帰りたくない…です…」
唇をなぞっていた指が止まり、そのまま顎を捉えて…アラン様の唇が重なった。
今までくださっていたキスよりも優しくて…なのに食べられてしまいそうな程に激しくて…胸の奥からアラン様が好きだという感情が溢れて溢れて…どんどん湧き上がる。
アラン様は王宮の騎士様で、私はただの革職人。
私の小さな恋の物語は、どうやら想いが大きく膨らんでしまった。
行く末に永遠がありますように…
END