第5章 小さな恋の物語
王宮の門は…想像よりも大きくて高くて…
ドレスに包まれた私は、招待状を掲げて、その門を通り抜ける。
同じ石畳みの道でも、なんだかうまく歩ける気がしない。
とにかく会場へ向かわなければ…
お城に入れば、綺麗に着飾った美しい方ばかりで…早くも気後れしてしまう。
耳にも贅沢なクラシックの演奏が聞こえてきて、ここはもしかしたら夢の中なのかもしれない。
会場となる大広間には、みんながプリンセスとプリンスに見えるほどに華やかで…壁際を歩くのが精一杯だった。
プリンセスの登場に合わせて、音楽が流れる。
普段着のお姿しか見たことなかったけれど…
登場されたプリンセスは、シンプルなのにどこか煌びやかな…まるで妖精の様なドレス姿で…私の大好きなふんわりとした笑顔で、ご挨拶をなさった。
そして、選ばれたパートナー…次期国王様がご登場される。
次期国王様は…
レオ様?!
なんてことだろう。
レオ様が次期国王様だったなんて。
一昨日までの日々が嘘の様に思えて来る。
でも…素敵だな。
優しいプリンセスとレオ様が治めるウィスタリアは、これからきっと幸せな人が増えるに決まってる。
今日、ここに来れてよかった。
感動で涙が込み上げてくるのをなんとかくいとめようと、お二人の姿から視線をはずすと…私が心を奪われた騎士様のお姿があった。
それは騎士様の正装をしたアラン様…
ドクン
と、まるで矢を射られたみたいに突然胸が苦しくなる。
お会い出来た…
でもなんて遠いんだろう。
騎士様の正装をしたアラン様は素敵で…まぶしくて…とても触れることの出来ない存在で…
こんな風に苦しいのは、贅沢を知ってしまっているから…。
私は貴方の声も吐息も優しい手も知ってしまっているから…。
もっと知りたいだなんて…強欲な事を考えていた自分が恥ずかしい。
ほら…こんなに遠い。
レオ様にもプリンセスにも、直接お礼が言いたかったけれど、とても近づける雰囲気じゃないな…。
もう帰ろう…
ダンスをする為の音楽が優雅に奏でられはじめる。
煌びやかな方達の間をすり抜けて、出口を目指した。