第3章 夢ならまだ覚めないで
「さん、そんなに緊張しないで?私もつい最近までこの辺りに住んでいたの。」
ふんわりと微笑むプリンセスは、可憐で綺麗で華やかで…吸い込まれてしまいそうになる。
綺麗だなぁ…なんて、再びぽーっとしてしまえば、
「くくく…あははは。お前呆けすぎだろ。大丈夫だよ。」
と、アラン様の掌が頭に優しくぽん、と落ちてきた。
顔に熱が上がるのがわかる。
「さん、私もお願いがあって来たの。これ…修理して貰える?」
そう言ってプリンセスが見せてくださった物は、ペンケースで…
「これなんだけど…留め具がはずれてしまって…」
プリンセスはとても大切そうに、外れた留め具をそっと撫でた。
そのペンケースは…
「これ…」
言葉につまってしまった私に、プリンセスは続ける。
「これね、私が家庭教師を始めたばかりの時に、初めて受け持った生徒のご両親からいただいたの。とても大切なもので…アランに相談したら、貴女を紹介してくれて…」
プリンセスの声は、高すぎもせず低くもなく…耳にすうっと溶けるように入ってくる、心地いい声だった。
「どうかな…?」
言葉を詰まらせて固まっている私を、少し不安そうに見つめている。
そっとペンケースを受け取る。
このペンケースは…私が初めて商品として並べられる、とおじいちゃんに認めてもらったものだった。
大切に作ったのを思い出す。
まさかプリンセスがこんなにも大切にしてくださっていたなんて…。
「だめかな?」
ペンケースを見つめて動かなかった私に、いよいよ不安げなプリンセスの声がした。
「あっい、いえ!大丈夫です!」
大切にしてくださってたのが嬉しくて、思わず泣き出してしまう勢いだったのが恥ずかしい。
「これ、私が作ったので…」
そう言えば、
「わあ!すごい!それなら安心しておまかせできる!」
嬉しそうに微笑むプリンセスの、笑顔の理由に、嬉しくてくすぐったい気持ちになった。
再びぽん、とアラン様は私の頭に掌を乗せると、
「嬉しそうだな。」
と、優しく微笑んでくださってる。
「はい!」
そんなアラン様にも嬉しくてくすぐったくて、思わず涙が溢れてきた。