第3章 夢ならまだ覚めないで
今日は修復ご依頼の鞄を、アラン様が取りにいらっしゃる日。
悩んだ末に買ってしまった新しいワンピースを着て、新しく作った、赤色に染めた革のシューズを履く。
新しいワンピースに合わせた靴が欲しくて、革物加工の修行中は苦手だった靴作りに挑戦してみれば、意外にも上手く出来上がった。
靴も商品化しようかな?なんて考えたり。
いつ頃いらっしゃるかな?
そわそわして落ちつかない。
カランカラン
お店の扉が開く音がして、私の心臓が少し飛び跳ねた。
「いらっしゃいませ」
アラン様がご来店されたという期待は抱かずに、作業をしていた手を止めて、顔を上げる。
ご来店されたのは、可憐な女性だった。
あれ?この方をどこかで…
「ごゆっくりご覧くださいませ」
店内を見回す可憐な女性に声をかけると、
カランカラン
もう一度、扉が開く音がした。
いらっしゃいませ、と入り口に目線を向ける。
「お前いいかげんちょろまか先に行くの止めろよ。」
先にご来店された女性に、少し怒った様子のアラン様だった。
「アラン様いらっしゃいませ。お品物を只今持って参りますね。」
なんだかとても親しい様子のアラン様と女性の姿をあまり見たくなくて、バックヤードまで逃げるように走る。
ああどうしよう。
嫉妬なんてする資格もないのに。
あの可憐な女性を私はどこかで見たことあるような…
どなただっけ?と考えながら、店頭まで歩く。
店頭へ着いて顔を上げると、女性と目が合った。
この方は…
「プリンセス?」
思わず呟いてしまって、慌てて口許を抑えれば、
「そうプリンセス。俺が此処に用事に行くっつったら、連れて行けってうるせぇから…。おい、だ。」
アラン様はプリンセスをお名前で呼んでるんだ…。
そんなことが頭に浮かんで、思わずぼーっとしてしまう。
「?」
はっと気がつくと、アラン様のお顔は私を覗きこむよいに近づいていて、思わず仰け反った。
「あ、はっはい!プリンセスをこんなに近くで拝見出来るなんて光栄です!どうぞごゆっくりしてくださいませ!」
なんだか変な感じに声が裏返ってしまって、アラン様の笑う声が聞こえる。