第4章 洗脳ハートⅣ「不器用な心」
道場に入ると庭のある廊下側から日差しが入っていて
ぼんやり明るく、気持ちの良い空気で澄んでいた。
この時間帯だと任務や見廻り、書類整理と
仕事が忙しく誰も道場には来ない。
非番の人達も自由に鍛練できる様にはなっているが
自分から進んで非番を潰す熱心な隊士は残念な事に
この真選組にはそうそういないのだ。
たまに道場の倉庫裏でジャンプの回し読みをしてる
山崎さんやほかの隊士をみかけるが
先程山崎さんには会ってるから、それもない。
鍛練に集中できて好都合だ。
「よいしょ、と。」
隊士達が誰もいない道場の端で普段着から胴着に
着替えると、真衣は素振りから鍛練を始めた。
私の動きは無駄が多い...。
体格も小柄なせいで重芯がぶれやすく
力技に持ち込まれたら打つ手もない。
だから、人一倍に努力する必要がある。
間合いも小さい、リーチも短い。
相手が触れる前、動くよりも重く、斬る。
「っはァ...」
頭で理想を思い浮かべる事はできても
思うように身体が付いていかない。
どれだけ鍛えようとしても筋肉は付かないわ
直ぐに息が上がってしまうわで
最初は気にもしていなかった、隊士との違いも
今更になって気が付いた。
真選組で唯一自分だけが違うという事実...
男女の違いを嫌でも考えざるを得なかった。
もう、あやふやになっていた...
その時。
「背中が殻空きでィ。」
息を切らしながら俯く真衣に向かって
後ろから声が聞こえる。
「ぉ、沖田さん...」
振り返ると、そこには腕を組んで扉に凭れている
退屈そうな顔をした沖田がいた。
沖田はふぅっと溜息を吐くと此方へと歩み寄って
真衣の目前で立ち止まった。
「真衣、お前ェの刀技は力じゃねぇ。
筋力鍛えりゃどうにかなるとでも思ってんのかィ?」
「え...」
「無ぇもん無理して得る必要ねぇや。
今持ってるもんを磨き上げろィ。」
沖田は真衣が今の今まで考えていた事を
全て見通している様な口振りで言い放った。