第4章 洗脳ハートⅣ「不器用な心」
近藤さんの気遣いで今日は非番にしてもらった。
仕事に支障が出る程の怪我でもないのだけれど
近藤さんに余計な心配をかけてはいけないと思い
お言葉に甘える事にした。
だけど安静にしているのも何だか落ち着かなく、
道場で稽古でもしようと真衣は自室を出た。
そして廊下を歩いていると、山崎に出くわした。
「山崎さん。」
「あれ、真衣ちゃんこれから出かけるの?」
「いえ。稽古しようと思って。」
あと数歩程で目指していた道場があるのだけれど
山崎に声を掛けられ、真衣は目の前で足を止めた。
「そんな怪我で大丈夫?俺、付き添おうか。」
「え?ぁ、大丈夫ですよ。打ち身程度の傷なので。」
「でも、局長に聞いたけど、結構重傷って...」
「...ぜ、全然ですよ!近藤さんが大袈裟なだけで
この通り私は元気ですから!ご安心を!」
あぁ、目を覚ました時の近藤さん、凄い勢いだったな...。
近藤が山崎に話している時の様子が真衣の頭には容易に浮かんだ。
「そっか、それなら安心した。」
「はい、頑丈に出来てるんで。」
「そっか...。」
心配させては悪いし、出来ない奴だとは思われたくない。
心中でそう思っていると山崎の手がゆっくりと動く。
そして真衣の頬へと伸びて、触れる寸前で停止した。
「もし手伝って欲しいことがあったら、遠慮なく俺に言ってね。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
「俺にとって......」
言いかけた途中で言葉を切られ、気になって彼の方へ顔を向けた。
「俺にとって?」
「あ...いや、ごめん、俺何言おうと......」
問いかけると、山崎の頬はたちまち赤くなる。
そんな彼の見たこともない反応に、
真衣の頭の中は更に疑問が深まった。
「じゃ、じゃあ俺行くね。稽古頑張って。」
最後まで言葉を言い終える事もなく背を向けた山崎は、
真衣が声をかける間もない程の速さで
慌ただしく廊下を走って行った。
「...何だったのかな?」
呟いてみたところで帰ってくる返事はなく
不思議に思いながらも真衣は道場へ足を進めた。